
略 歴
1948年生 1970年 同志社大学卒業
1970~2008年 県立高校教諭(社会科)
2008~2025年 滋賀県調理短期大学校講師(企業論・経営学・情報理論・情報処理)
2018年~ 真宗大谷派門徒宿(東浅井詰所)家代
回 顧 録
① 厄年 → ② 還暦 → ③ 日々是好日
- 教職に就いて二十年余り経った1月中旬、遅い食事を取っていると、突然教室まで呼び出されました。そこには40名程の生徒がストーブを囲み、昨日の大学入試センター「日本史」を自己採点していました。私も当日の新聞に目を通していました。授業も担当しており「日本史」について、矢継ぎ早に質問をしてきました。一つひとつ丁寧に答えながら、授業でもセンター試験に向けて過去問を課してきたこと、さらには作題者の意図(受験生にどのような学力を求めているか)にも言及し、生徒達たちの質問には納得のいくまで答えました。
質問も出尽くし、職員室へ戻り際に生徒たちのつぶやきが漏れ聞こえました。男子からは「清水T(先生)は進学指導にも優れている。素晴らしい!」「清水Tは高校よりも河合塾など予備校の方が適職かも!」「清水Tは60分のセンター試験を20分で解答したそうだが、スーパーTだ!」。
女子からも「授業では、本時のまとめとしてセンター入試問題の解説も聴いた。でも清水Tのユーモアと話術に気を取られ常在戦場に欠けていた。授業は受験本意で、次回の授業課題を解いておけば難関大学も夢ではなかった。全ては後の祭り。清水Tって独身かしら?私生活も覗いてみたい!」
成績がトップであった女子からは「囲碁に入部して大会に参加できるまでの棋力になった。最後の部活動では清水Tと置き碁四子で持碁となり初段と認定された。五子では天元に黒石があり自在に攻められるが、四子では戦略が読めない。しかし清水Tから、随分ヨミも深く手筋も正確になったと褒めていただいた。いつか清水Tと互先で対局するのが私の夢!年齢差がなければ清水Tを敬う気持ちが思慕へと変わっていたかも!」・・・職員室へ引き返す背に聞こえた生徒たちのつぶやきを悠然と受け流したことも「今は昔」です。師弟を超えた真剣かつ真面目な「日本史」探求の特別授業は、多感な生徒達との忘れがたい一コマです。教職一途の狭い人生でしたが「教師冥利」は枚挙にいとまがありません。 - 還暦の喜びも束の間、突然体調が悪化し市立長浜病院を受診しました。四十歳前後と思われるDr.O先生は、丁寧かつ正確に病状を説明し、手術が最良の治療と説明し執刀もして頂きました。O先生をキャップに3名の精鋭な外科チームによる7時間の開腹手術でした。一ヶ月で退院できO先生は命の恩人です。退院後も経過診察を受け5ヶ月後に完治診断して頂きました。診察室を出る時にO先生は笑顔で「今後は決して無理をしないこと!」と付言され、今日まで実践しています。
O先生はその後京大病院へ戻られています。市内最大の長浜病院には多くの医師がおられますが、たまたま私が受診したO先生との出会いが、高度なスキルで命を救って頂き、今日があるのです。人生はまさに出会いの命運です。
さて人生の充実期を生徒の指導に明け暮れ、一人ひとりに全力投球してきました。教師に課せられた仕事は教科指導だけではありません。学校行事を始め、進路・生活・カウンセリング・保護者への対応など多岐にわたります。青春真っ只中の生徒達にどれだけ適切な指導が出来たか、自己の非力に反省の日々です。 - 余生をカウント・ダウンする年齢になりましたが、2025.3月まで教壇に立っていました。教職生活も55年になりました。講義中は立ち続け教卓の椅子には座りません。学生達には常にユーモアと知的満足100%のサービスを提供しています。「教育」とは究極の知的「サービス業」です。かつて教師は授業で勝負すると言われましたが、今の若者には通用しません。
教育も変わりました。学生が求めるニーズを敏感に察知し老骨に鞭打って頑張ってきました。教壇に立つと若者の笑顔に癒やされます。毎年最終講義でサインを求められると「人間万事塞翁が馬」を贈ります。しかし人生は何事も引け際が大切です。老害あって一利なしは避けなければなりません。
科学文明の発展は、わたしたちの日常生活を豊かにしてくれる一方で、思いがけない危難をもたらします。近年全国で自然災害が頻発しています。地震・洪水・山林火災などの脅威を前に人間は無力です。私たちが求め続けた豊かさ・便利さ・人工知能(AI)などの反動が地球環境の悪化として警鐘を鳴らしています。
光陰矢のごとし、気づけば好好爺になっていました。早寝早起きに心がけ、朝夕には御天道様に手を合わせて平穏無事を祈念する毎日です。自然に生かされている畏敬の念と古代人が恐れた森羅万象に大きな力が宿る自然崇拝(アニミズム)を大切にし、自身の無力さとすべてに対して謙虚さと感謝を忘れない生活を肝に銘じています。人間が生きている時間は実に短い。自分に与えられた時間をどのように生かすか、これが人間に与えられた課題です。
現役時代には祖父や父が仏壇に手を合わせていた情景を冷やかな目で眺めていましたが、気付けば今、私が同じ振る舞いをしています。合掌
趣 味
囲碁 ・・・本書の副題も「秀吉も一目置いた武士団」としました。